電力、選べる時代に 改正電事法成立、地域独占崩し完全自由化

2015年6月18日 <日本経済新聞>

電力事業の自由化が本格的に幕を開ける。大手電力から送電部門を切り離すことを義務付けた電気事業法などの改正案が17日、参院本会議で成立。事業者間の競争を進め安い電気や多様なサービスを消費者が選べる枠組みを整えた。電力システム改革の総仕上げとなる同法の成立で、戦後60年以上続いた大手9社による地域独占は名実ともに終わる。

「顧客の利益につながる改革となるよう、積極的に取り組む」。改正電事法が成立した17日昼、電気事業連合会の八木誠会長(関西電力社長)は、競争の激化をにらんだコメントを発表した。

電力システム改革は2020年まで段階的に進める枠組みだ。当面の焦点は16年4月から始まる電力小売りの自由化だ。地域をまたいだ電気の販売を可能にするほか、20年4月以降は家庭向けの電気料金を認可する規制も撤廃する見通しだ。

民間の動きも活発になってきた。東京電力はソフトバンクなどの通信会社や、TOKAIホールディングスなどのガス会社と協議している。消費者は携帯電話やガスとのセット契約を結ぶことで、安い電気の契約を結ぶことができそうだ。電気の使用量に応じて積み立てたポイントで、日用品が買えるようになったり、再生可能エネルギーでつくった電気だけを選んで買えるようになったりする可能性がある。

17日に成立した改正電事法は小売り自由化後の公平な競争の促進が狙いだ。今は大手電力が送電線などの設備を事実上独占し、発電や小売りに参入する事業者は利用料を払って送電線を借りる必要がある。

経産省は送電部門を切り離せば、新規を含む全事業者が送電線を安く平等に利用できるようになるとみる。送電会社同士が統合すれば家庭に電気を届ける費用が大幅に下がる効果も期待できる。

ただ、本当に電気料金の引き下げにつながるかは不透明だ。英国では1999年に小売りを全面自由化してから13年までに、電気料金は約2倍に上昇した。自由化後に大手電力が卸電力の価格を操作。市場競争が働かなかったとの指摘がある。

政府は今秋にも自由化後の電力市場の取引を監視する「電力・ガス取引監視等委員会」を立ち上げる。大手電力や分社後の送電会社と新規参入業者との間で公平に取引されているかチェックする。

戦後すぐに確立した大手電力9社による地域分割はもともと、地域会社同士のコスト競争などの効果を期待していた。だが、実際には電力各社のコストは横並びで高止まりする傾向があった。

今回の改革で大手電力側は「送電部門を分離すると安定供給が維持しにくい」と主張した。政権の求心力が衰えれば、郵政民営化と同じように改革の一部を先送りする動きが出る可能性も残る。